《語り部》の唄 〜崩壊と再生〜

人は一粒の水滴
ささやかな、美しく儚い、
瞬間の命


かつて、希望の炎が
かき消された時があった
マナの木は燃え尽き、
人は何かを失った

大気は澱み、
命あるものの心は
虚ろな闇に
犯されていった

時は移ろい、
大切な何かが
人の心から薄れていった

しかし、炎は消えてなお、
燠火を燻らせていた

あどけない嬰児(みどりご)
罪のない微笑みに
心が和み、

美しい朝焼けの空に
自然の偉大さを
思い出し、

忘れていた、
厳粛で暖かな何かを
人は、ふと思い出す

忘れているということさえ
知らずにいても
心のどこかで
求めている

そんな、
心の海のかすかなざわめき


人は一粒の水滴
ささやかな、美しく儚い、
瞬間の命


或る時、
或る者が、
一つ一つの水滴の
かすかな震えを
感じ、
共鳴し、
洩らすことなく
その切なる叫びを
聞き届け、

ついには、
一つの大いなる
うねりを生み出した

幾つもの無数の水滴が
集まり、共鳴して、
ついには、
時代を変える一つの
大きな波となる

時代の波の中で
“自由”に目覚めた乙女は
“希望の炎を灯す者”となり、

虚ろな世界を
突き抜けたいという思いを、
言葉を超えて捉えた者は
“英雄”となる


心の闇を知ることで
己を恐れ、憎む者たちよ

闇を憎むことは、畢竟、
己の光をも遠ざけること

闇を殺すのではなく
憎むのではなく
ただ、存在を認める
それだけでいい

それだけで
人は世界を変えられる

闇を認めることで
光の存在をも知り、
世界の豊かさを
思い出すことができる

願うだけでいい
思い描くだけでいい
信じることが、
力となる

求めなければ、
何も変わらない
求めなければ、
何も変えられない

それだけが、
己を変える力
それだけで、
己を変えられる

こうした叙情性を包括する叙事詩(何やら矛盾した表現ですが…)が好きです。
“英雄”の役割とは何なのか。そしてマチルダの行く末は如何に。
これが、私なりの結論です。

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