歌が止んだ日

舞い落ちる雪を見上げていた

果てしのない天から
ふわふわとただよいながら
優しい幻たちが降りてくる

思わず吸い込まれそうになる
空へと


私の翼は何のためにあるの?
どこへでも飛んでいけるようで
どこへも行けない

空は広く どこまでも続いている
太陽のまぶしい光も
恵みの雨も
降るような星々も
透きとおるような月光も
豊かな全てがそこにはある

けれど私は無力で
その豊かさに途方に暮れてしまう


もの皆萌えいずる新しい季節に
花を無惨に散らしてしまう
そんな春の嵐のよう
私は


この世の美しいものを見るたびに
胸がしめつけられる
歌はいつも
いつの間にか湧き上がってくる
心の奥から

そして
想いのたけを調べにのせ
私は歌う
歌わなければ翼は枯れてしまう

でも
翼がなくとも私は歌うだろう
歌うことは
呼吸をするようなことだから


だけど


歌うことで花を散らしてしまった
人の命という
二度と咲かぬ儚い花を


あの日
遥かに広がる海の上で
いつものように私は
心に染み入る海の豊かさを
歌い上げていた

空の青と海の碧が
全てだった
あの果てしない世界の中で

気ままに歌い 飛び
そして
一艘の船のわきを
掠め飛んだ時



私は罪に染まった



花を散らしてまで
歌いたくはない
それで私の翼が枯れようとも

歌えないことの辛さは
苦しみは
花を散らした悔恨の前では
さらさらと崩れていく


私はどうしたらいいのだろう


相変わらず豊かな空は
私を途方に暮れさせる

空は変わらないのに
私の世界は変わってしまった

どうすれば償えるのだろう
どこへ行けばいいのだろう

どこへでも飛んでいけるようで
どこへも行けない
私の翼は何のためにあるの?


私にできるのは
歌うことをやめ
地上から
この優しい幻たちが舞い降りるのを
眺めることだけ

舞い落ちる雪を見上げていると
吸い込まれそうになる

ふと なぜか
どこかへ行けそうな気がして…

セイレーンのエレは、歌わなければ翼が枯れてしまいます。
でも、彼女は自ら歌わない道を選びました。
ガイアとの会話に、
エレの求道心の深さを垣間見たような気がします。

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