夜空を見上げて

わぁ、きえい〜!

…ああ。いつ見ても驚かされるな、この光景は。
この星の数に比べたら、俺が救ってきた命なんて物の数にも入らないだろうな。

な、なにをいうのよさ!
先生はすご〜〜くたくさんの人をすくったのよ!
すご〜くりっぱなんだから、ピノコのだんなさまは…(はっ、言っちゃった(照))

ふふ…。
この夜空が神の創ったものだというならば、俺の業(わざ)はとうていその足元にも及ばないさ。
けれど、俺はそれでも医者を、この仕事をやめない。
なぜだかわかるか?

う〜ん? らって、先生はすごいのよ。
みーんなほめてゆのよ。
それに、かみさまは人をなおさないのよさ!
見てるだけなのよ。
先生はちゃんとなおそうとするの。
だから、先生のほうがえらいんだかや!

えらい、か。
神の成すことは大きすぎて、俺達にはつかめないだけさ。
神は我々にはとうてい及ばないことをたやすくやってのける。そして俺達人間は必死こいて努力しなければささやかなことでさえ成し遂げられない。
でも、そのささやかなことが大事なんだ。
見ろ、俺の体を。
不具だったこの体が今こうして使える物になっているのは、医学のおかげだ。
これは、人間の可能性なんだ。神の業なんかじゃない。
人間が奇蹟を起こせるというまぎれもない証だ…だから、俺は神に挑み続ける。
俺の人生が医学によって変わったように、一人でも多くの人の人生を、運命を変えてみせる。
死ぬはずの命を救い、不具にはるはずだった身体の機能を回復させることは、ある意味神への冒涜かもしれん。
だが、俺はそれでもやめない。たとえ死後に地獄に落ちることになってもな。
どんなに手を尽くしても救えない命もあれば、なんとか救える身体もある。
そうしたわずかな可能性がある限り、俺はそれに挑み続ける。
それが、人間の存在意義なんだ。

そんざい、いぎ?
ピノコにはむずかちいはなしなの〜…。

あはは、たしかに難しかったかな?
つまりだな、俺は、運命に抗おうとする奴らが好きなのさ。
なんとしても大事な人を救ってほしいと全財産を投げ出す奴、どんなに身体が絶望的な状況であろうと生きようとする意欲を全身にみなぎらせている奴…みんな、俺と同じ人間さ。
神の与えた運命に真正面から刃向かおうとする、その気迫が俺は好きだ。
運命ってやつだけは、金ではどうしようもないからな。第一、神には賄賂は効かないだろうしな…ふふ。
それでも、その運命をなんとしても変えようとするのが人間だ。
で、俺もそんな人間の一員であり続けたいってわけさ。
どうだい、わかったかい?

うーん、よーするにいっしょうけんめえ生きゆ人がすきってことね?

その通り。ちゃんとわかっているじゃないか。ふふ。

えへへ、ほめられた〜♪

ニヒルなようで、実は確固たる信念を持つブラックジャック。
普段は金の亡者ぶりを発揮しているだけに、
作品のところどころににじみ出る人間味がとても暖かいです。

そして、ピノコとの名コンビも好きです。
親子でも兄妹でも恋人でもなく、“コンビ”なのがよいのです。

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