同じ空の下に

《魂の距離》

「ねぇ、キーファも同じ星を見ているのかなぁ」
 空をぼんやり眺めていたアルスが唐突にしゃべった。
 …本当に、キーファのことを恋しがっているくせに、キーファの思いにはちっとも気づかないのね。
 ウスラとんかちだったらありゃしない。
「見ているに決まってるでしょ。時代は違っても同じ空よ?」
「…うん。そうだよね。会えなくても、どこかで繋がっているよね」
 そう言って、かすかに微笑む。
 見ていてじれったくなるわね…この馬鹿は。
 でもこればかりはあたしから言うわけにはいかない。
 アルスが気づかなきゃいけないことなんだから。
「アルス、なんでキーファがああいう決心をしたかわかんないわけ?」
 だから、これがせめてものヒント。
「…ユバール一族を守りたいと思ったから」
 思わずため息をついた。
「え? 違うの?」
 答える気力も失せたわ。やれやれ。
 でも、どのみちこうしてへこんでられると困るのよね。
 リーダーの志気が落ちていると戦闘で命を落としかねないんだから。
「アルス、いつまでもうじうじしているとキーファに軽蔑されるわよ?」
 するとアルスが目を丸くする。
「キーファが頑張っているのにあんたが頑張らないでどうすんのよ。
 それにあんたがへなちょこだとあたしにまで迷惑がかかるんだからね!
 ガボは考えなしだし、あんたがその脳みそキリキリ働かせて指揮取ってくれなきゃどうしようもないのよ?」
 びしばし言ってやると、ようやくアルスの表情が甦ってきた。
「…そうだね。ごめん。
 キーファが抜けた分、前よりも戦闘が大変だし、気が抜けないよね。
 頑張らなくちゃ、キーファに笑われちゃうな」
と言い、一瞬、夜空を遙かに見やった後、
「ありがとう、マリベル」
と言って、アルスは照れくさそうな笑みを浮かべた。
「別にお礼を言われるようなことじゃないわよ」
とあたしは言い、立ち上がった。
「さぁ、いい加減宿に戻るわよ?
 明日に備えて寝ておかなくちゃ。戦闘中に眠りこけたらただじゃおかないわよ」
 そう言うと、
「きついなぁ」
と笑いながらアルスも立ち上がる。
 あたしに言い返すということは、いつものアルスに戻った証拠だ。
 とりあえずはこれで一安心ね。

 ふと空を仰ぐと、星が夜空いっぱいに瞬いていた。
 昔から、そしてこれからもこの夜空は変わらないのだろう。
 時空を超える旅をしてあちこちを渡り歩いても、人間も星もちっとも変わらない。
 喜びも悲しみも、夜空を彩る瞬きも。

 アルス。キーファだって変わらずにあんたを思っている。
 いつかは気づきなさいよ。
 別に、キーファの思いがアルスに届いてなくたってあたしの知ったことじゃないんだけどね。

 FIN

心底憧れるからこそ別れることもある。
この旅で自分を見つけたのはアルスだけではなかったのだと思います。
そして、そんなアルスを見守るマリベルもまた、自分を見つめ直したのでしょう。
DQ7の仲間達は皆好きなのですが、素直になれない照れ屋のマリベルが
殊にかわいらしくてお気に入りなのです。

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