コンゴの物語

《出会い》

 そこに割り込んできたのは、あのマスターだった。
「今日は心の樽に水が満ちる日、また、マナの女神が休息の日と定められた日ともいいます。アナグマ達にも休息日は必要ですよ、そして、あなたにも」
 一瞬、くってかかろうとしたコンゴだったが、「心の樽」と「マナの女神」という言葉が彼をおしとどめた。
(コヤツ、「心の樽」だなんて、イキなことをいいおる…ふんっ、あのツンツン頭よりは詩心ってヤツがわかるようだな…)
先日、コンゴはアナグマの「ぐまぐまま」だという者に勝手に詩集を読まれてしまい、しかも、さり気なく感想を聞いてみたところ、返ってきたのは「特に無い」というそっけない返事だったのだ。
 以来、その出来事は、ちくちくとするサボテンのとげのように、ずっと彼の心の中でうずいている。そして、詩集も肌身離さず持ち歩くようになった。もちろん、勝手に読まれないためにだ。
(それに、コヤツ、「マナの女神」とか言っていたが…?)
「…なんで今日が女神の休息日なんじゃ!?」
「私の知り合いが魔法都市で働いているのですが、魔法学園ではノーム曜日とウンディーネ曜日が休日だと聞いています。時代によって移ろっているのでしょうが、今はノーム曜日とウンディーネ曜日を休息日とするのが一般的のようですね。
 ヌヴェルさんも、こう述べておられました…『聖書によれば、マナの女神は《吾(あ)が愛し子らよ、休息の日を設け、その日は一日、我と大地を讃えよ》とおっしゃっています』と。
 あなた方も女神の元で大地に仕える身の上、せめてノーム曜日ぐらいは女神のために休まれてもかまわないのではないでしょうか?」
 マスターは、バーテンを弟子呼ばわりしない。
「……」
 ダンディなヒゲとおだやかな口調を持つ彼の言葉に、コンゴは考え込んだ。
(そうだな、プッツイ様をくつろがせる日が一日ぐらいあってもよいな。あの方はいつもけなげに歩き回っておられる、たまには…)

[ | 文机 | ]