或るエピローグ

《後悔》

「『その人』のしてきたことは、結局何の意味があったのかしらね?」
「…『幼子』を見殺しにはできなかった、優しい人だと思いますよ」
「では、その『村人達』を殺していったことも許されるの?」
「…問題は、『その人』が後悔しているかどうかだと私は思います」
「………」
 グラスには、露がつき始めている。
「『汝、後悔することなかれ』。…聖書にある言葉だそうです」
「…後悔しない人なんて、いるのかしらね?」
「後ろをふり返ることと結果の良し悪しを、繋げてはいけません。おわかりですか?」
「……言いたいことは、わかるわ。でも、結果はこの通りよ…!」
 つい例え話の体裁を忘れ、そう口走ってしまっていた。しかし、マスターはそれに気づかないふりをして続ける。
「後悔は、してはいけないのです。もし『その人』が後悔したならば、その時点で『その人』は自分を愛せなくなると思いますよ」
「……!」
 かすかに、彼女の体が揺らいだ。
「『その人』に出来ること、『その人』にしか出来ないことだってきっと、ありますよ。『余所者』と『その人』は、全く別の存在なのですから」
 その言葉は、痛烈な皮肉となって彼女の胸を貫いた。

  「泣いてごらんなさい、泣けないの?」

 彼女の復讐は、この言葉に凝縮されていた。
 彼らが泣けるとは毛頭思っていなかった。この上なく皮肉な言葉で彼らに自分の醜さ、無力さを思い知らせ、そして絶望の内に死に至らせる…。それが彼らへ向けられた憎しみの刃であり、そして今、その刃は翻って彼女の胸をえぐる。
 自分は、泣けない。他の者と同様に。本当に、泣けなかった…。
 本当は、泣けない自分の醜さに苦しみ、自分で自分を滅ぼしたかっただけ。
 自分が泣けないのだから、涙を流せる者なんていやしないと思い込んでいた。蛍姫を除いては。
 ……でも、結局珠魅は涙を取り戻した。
 自分が信じられなかったものを信じ、自分に出来なかったことをやってのけた彼ら。この人の言う通りだ。本当に、『余所者』と『その人』は違うのだ…。
 蛍姫様も元気になられた。もう……

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