或る逃避行

《少年と少女》

 少年と少女は、ひたすら走り続けていた。
 少女の華奢な足は既に悲鳴を上げていたが、少女はしかし、苦痛も何ももらさなかった。
(会える…ついに…! そしたら…)
 その熱い思いのみが少女を支えていた。
 そして、少年はそんな少女を気づかいつつ、モンスターをやすやすとなぎ倒し、追い払いながら進んでいった。
 悠久の風が吹きわたる、そこは荒野のただ中の街道。
 超人的な少年の目にも、その耳にも、追っ手の兆しは未だ捉えられていない。しかし、モンスター達の残骸が、彼らの行く手を示すだろう。
 急がねば。
「…大丈夫か?」
「……え、ええ…! もうすぐよね…?」
「多分な。……なんだ?」
「え、どうしたの…?」
「…すごい音が、あっちからする」
 そう言って、少年は行く手に視線を向ける。
「な、なにか起こっているの?」
「いや、違うみたいだ。なにか、地鳴りみたいな音だ。…大丈夫だろう。行こう。」
 その言葉に、少女は頷き、そして二人はまた駆け出す。
 一人は教示を求め、一人は傍らの者の望みを叶えるために。

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