或るプロローグ

《珠と玉》

「私の核の種類まで見破っておいでなのに、そんな答えで納得するとお思いですか?」
「……我が名は宝石王。僭称にあらず、自嘲なり」
「…コレクターではなさそうですね。『王』であるのは、自らの意志によるものではないと?」
「私は、珠(たま)を生み出せる。大地に抱かれ、育まれるのが玉ならば、海の底で貝に抱かれ、育まれるのが珠。私は、珠を造ろうとしてこの世に生まれたわけではないのだが」
「珠…真珠の類ですね。月から来た、いや海から来たなどとさまざまに言われていますが…」
「『月の雫』『人魚の涙』……美しきものを愛でる者達から生まれた賛辞だ。しかし、実際にはこんな醜きものから生まれていたのだ…失望したかね?」
「…いえ、驚いてはおりますが」
 ふと、今は死んでしまっているであろう、友人の姿が脳裡に浮かぶ。
「珠も、玉も、みな美しい」
「……泣けない珠魅が美しいとは、これまた面白いことをおっしゃいますね!」
「泣けないのか。たしかに、自分の命を削って他の者に分け与えるのはなかなか出来ないことだ。だが、それが出来ないからといって、その価値まで劣るのかね?」
「石としての価値ではなく、人間としての価値です。他人のために泣けることが出来なければ、その核の煌めきは煌めきではない…ただの光の反射に過ぎません」
「…あなたは、涙を流したいのかね?」
「……流せるものならば、この命さえも捨てましょう。でも、流せないのです。私こそ醜い者なのですよ、王」
「…私は、あなたは十分に美しいと思うのだが。あなたからはマナの波動を感じる。それは、あなたの胸の輝きが生命の煌めきである証だ」
「マナ……」
「そうだ。それゆえ、マナの力を得ようと多くの者が珠魅を狩り、その核を調べ、そして傷つけた。愚かなことだ…」
「王! 貴方は、マナ・ストーンについて何かご存知ありませんか!?」
 男の問いかけに、王はゆるやかに首を振る。
「いいや、話にしか知らない。あなたは、マナ・ストーンを探しているのかね?」
「必要なのです、涙を流せない我が身を捨ててでも手に入れねばならないのです…」
「…なにか然るべき理由がありそうだな。よかったら話してみないかね?」
 男は一瞬、躊躇した。万が一にも、この者が姫の核に手出しすることがあれば…。
「…貴方がこの先、私の敵に回らないと誓うならば、話しましょう。しかし、私の大事な方を傷つける者には、何人たりとも容赦はいたしません…!」
「私は、美しきものを傷つけることはしない。愛でることはしても」
「……ならば、話しましょう」

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